強みを活かすということ 〜ダビデの競争戦略から考える小規模事業者の勝ち方〜

 競争戦略の基本は「強みを活かすこと」だとよく言われます。でもそれって具体的にどういうことなのか、ピンと来ないという方も多いと思います。結局は資本力のある大手が強いに決まっていて、小規模事業者は大企業には勝てない、と考えている方もいると思います。そこで今日は昔話を題材に「強みを活かすとはどういうことか、小さい者が大きな者に対抗する術はあるのか」についてお話ししたいと思います。

 旧約聖書に「ダビデとゴリアテの戦い」のお話が出てきます。ダビデはそう、あのダビデです。ミケランジェロの彫刻で有名なこの人です。

 ダビデは古代イスラエルの王とされてされている人物ですが、ゴリアテとの戦いは彼が王になる前、まだ少年の頃の物語として旧約聖書に記されています。ゴリアテはペリシテ人の巨人兵士で、身長は約3メートル、青銅の兜と脛当て、鎖かたびらで武装しており、巨大な槍を振り回す怪力の持ち主です。物語はイスラエル軍とペリシテ軍との戦いでの場面です。

 ゴリアテは「勇者を一人出せ、一対一でやろうじゃないか」とイスラエル軍を煽ります。しかしイスラエル軍兵士は完全にビビってしまい誰も前に出ません。その時「では私が」と名乗りをあげたのが少年ダビデでした。

 イスラエルの王サウルは「お前はまだ若すぎるし、体も小さく非力じゃないか、あんな巨人に勝てるわけない、やめておけ」と言います。しかしゴリアテの舐め切った態度に怒ったダビデは引きません。どうしてもやるというので、サウル王は自分の鎧と剣をダビデに与えます。ところがダビデは「そんな重いものを付けては戦えない、これで十分」と得意の投石器と石5個だけを手にしてゴリアテの前に出ます。それが冒頭の絵です。彫刻の像も左肩に何かをかけていますが、それが投石器です。

 さて、話を先に進める前に、ここまでの話でダビデとゴリアテのそれぞれの強みと弱みを整理してみます。下の表を見てください。ゴリアテの弱みは何でしょう?ここまでの話では目立った弱みはなさそうです。強いて言えば大き過ぎて動きが遅い?くらいでしょうか?

強み弱み
ダビデ身軽さ、勇敢さ、投石の技術小さい、力が弱い、経験不足
ゴリアテ大きい、力が強い、百戦錬磨
ダビデとゴリアテの強みと弱み

 どう見てもゴリアテの優勢。これではサウル王が心配するのも無理はありません。ダビデはゴリアテに勝てるのでしょうか?話を先に進めます。

 ゴリアテは小柄な少年が出て来たので笑い飛ばします。「お前の肉を鳥や獣の餌にしてくれるわ」。これに対してゴリアテは言い返します。「戦いは剣と槍だけで戦うものではない」。これを聞いてゴリアテは怒り、ダビデに突進してきます。ダビデはサッと石を一つ取り出し、投石器で勢いよく放ちました。石はゴリアテの眉間に命中し、前のめりに倒れました。ダビデはゴリアテに駆け寄り、剣を奪って首をはねました。驚いたペリシテ軍は総崩れになりました。

 旧約聖書にこの物語が書かれた意図が強みと弱みを説くためだったのかどうかは分かりませんが、この物語からビジネスをする上で非常に重要な示唆を得ることができます。まず自分の強みを知ることの重要性。機敏で投石の技術が高いことがダビデの強みであり、だからそれを損なうような重い鎧や剣は最初から放棄したのです。そしてゴリアテの唯一とも言える弱み、眉間が露出していることを見出し、その一点だけを狙ったのです。ゴリアテの長い槍も投石器の射程距離の前では全く役に立たず、ダビデは上手く相手の「強みを無効化」することに成功したことになります。自分の強みを最大化して相手の弱みにぶつけること、相手の強みを無効化すること、この2つをダビデはやったわけです。

 小さいことを活かした戦い方、大きい者には取れない戦略というものがあります。具体的は例は次回以降に紹介したいと思いますが、今日は「強みを活かす」ことのイメージを持っていただければと思います。