小さいからこその戦い方 〜小規模事業者にとって専門化が良いもう一つの理由〜

 過去の記事「大企業とは異なる立地で戦う〜小規模事業者が磨くべき強みとは〜」(→リンク)では、小規模事業者が注力すべきは「個性・独自性・専門性・こだわり」と「小回りの効くサービス・親しみやすさ」であり、より専門性を尖らせることが消費者に響くという話をしました。これは消費者サイドから見た時の話ですが、実はこういった販売・マーケティング・サービス面での消費者メリットに加え、事業者側のオペレーション面や財務面でもこの戦略には大きなメリットがあります。

 例えば飲食店を例にとると、大手のファミリーレストランなどは席数も多く、席数に見合った厨房を確保できるため、豊富なメニューを取り揃えても調理対応できますし、そのための膨大な食材の在庫を保管することもでき、在庫もちゃんと回転します。さらに大型チェーンではセントラルキッチン方式を採用しているため、廃棄ロスの削減や各店舗でのオペレーションを最小化することにも成功しています。

 一方で席数に限りのある小型飲食店の場合、「なんでも出来ます」というのは専門性が低下するだけでなく、在庫回転率の低下や食材廃棄の増加、調理時間の増大などにつながりやすくなります。また回転率の低い食材の保管のために冷凍冷蔵庫のスペースを占有し、電気代も余分にかかるというのは、資金力の乏しい小規模事業者にとって最も避けるべきアプローチです。この観点から、唐揚げ専門店、タピオカ専門店、高級食パン専門店などは、消費者視点からも事業者視点からも小規模事業者がとるべき戦略として優れています。

 とはいえ、やっぱりバリエーションは欲しい、というケースも出てくると思います。その場合は「オプション対応」が良いです。例えば、オムライス専門店でソースの種類を増やす、カレー専門店でトッピングの種類を増やすなどです。この場合、基本構成は途中まで同じで、最後の仕上げだけバリエーションを持たせたりオプションを付加するだけなので、オムライス専門店店でパスタメニューを用意したりするよりは断然効率が良いです。

 小売店などでも在庫回転率の面では同じことが言えます。小規模小売店では商品の品揃えを充実させるより、特徴のある商品を適正な価格でしっかり売り切ることが重要です。売れ残った主力外の商品を期末に安売りしてなんとか原価は回収できたとしても、在庫は保管するだけでもコストがかかっていますし、在庫している期間は現金化されていないため、それだけでも資金を圧迫していることになります。

 ただ、アパレルなどの場合は関連購買を誘発させる効果があるので、服とバッグ、靴、マフラー、アクセサリーなどを「統一したテーマに沿って」品揃えをするというのは効果的です。ワイン専門店でチーズやハムなどを販売するのも関連購買になります。この場合は提案型接客でしっかり在庫が回転するのであれば売り上げに貢献するので効果があります。

 倒産寸前のアップルに復帰したスティーブ・ジョブズがとった戦略は「徹底的なスリム化」でした。15機種あったデスクトップ機を1機種に、ノートパソコンも1機種に、プリンターと周辺機器は全て廃止。水膨れした事業体から元の「パソコン専門メーカー」に回帰することで在庫を80%削減したのです。復活したアップルはそこから慎重に慎重に新商品を追加して今の姿になりました。今でもラインアップは最小限です。

 ということで今日のまとめ。

  • 小規模事業者はまず専門化、小回りの効くサービスと親しみやすさで客の心を掴むべし
  • バリエーションを増やすならオプションで対応、共通部分を多く残すべし
  • 関連購買を狙う場合は提案型接客でしっかり在庫を回すべし
  • 事業が成長するに従って慎重にラインアップを拡充、在庫回転率の低下に注意するべし

 個性あふれる事業者がそれぞれ発展していくことで、多彩で活力のある社会が実現できると信じています。